INTO THE GROOVE

洋楽/邦楽、メジャー/インディー、分け隔てなく。「今」を生きる、選りすぐりのポップミュージックを。 selected by YAMAGE

水カン“アラジン”デジタルリリース&MV公開

 昨日は「水曜日のカンパネラ ワンマンライブツアー2016~SUPERMAN~」の初日・川崎CLUB CITTA'公演に行ってました。ライブの感想はネタバレになるので置いておいて、この新曲には触れておきたいです。今回のツアーに先駆けデジタルシングルとしてリリースされた“SUPERKID”からの1曲、“アラジン”。

 

 

 前作の“松尾芭蕉”がスケール感が大きくギミックの多い充実した曲で(今回のシングルにもiTunes Exclusiveとして限定収録されています)、個人的にかなりツボでして、次はどう来るかと楽しみにしていたのですが、新曲は“松尾芭蕉”と好対照を成す、B級感漂うミニマルなダンス・チューンで攻めてきました。

 

 音の作りとしては“メデューサ”の同軸上にあるディスコ・ファンクなんですが、今回はわかりやすく「2016年版スリラー」ですね。実際に“Thriller”のリズムパターンを下敷きにしています。ビートの輪郭がビビッドで80sカラーが濃く、マイケルに限らずユーロビートやディスコ全盛の80年代のJ-POPとも親和性がありますし、ここ日本でも懐かしさを感じる方も少なくないんじゃないでしょうか。コムアイの歌唱も、今回はラップ控えめコーラス多めで、彼女の歌声のしなやかさが引き立つ歌謡曲要素の強い作りになっています。なんですが、終盤でのUKハウス/ガラージな展開や、ヴォイスサンプルをまぶしたアレンジなど、随所にひねくれ感があってちゃんとイマっぽく作られているのがケンモチ流。

 歌詞の方は、(アラジンのランプを)「こする」という言葉をもとに様々な研磨用語が飛び交う、相変わらずナンセンスながらも遊び心に富んだ内容なんですが、今作はどことなく猥雑さがあり、それが良い意味でB級感を演出しています。水カンでお馴染みの山田智和氏が監督を手掛けたMVも、ボーリング場を舞台にその詞世界をうまく表現していますね。色使いや猥雑な雰囲気は、水カンとの結びつきは薄いですが、個人的にテーム・インパーラの“The Less I Know The Better”を思い出しました。

 

 と、ざっくり解説でした。明日はテレビ朝日系「MUSIC STATION」でこの曲を披露するとのことです。水カンについてはまた機を改めて書きたいと思います。

岡崎体育のMステ出演に思う

一昨日のことですが、テレビ朝日MUSIC STATION」に出演した岡崎体育を見て思ったことを書きます。

 

 岡崎体育は、映像作品“MUSIC VIDEO”で火が付き一躍有名になったシンガー・ソングライター。彼を知らない方は、まずはその“MUSIC VIDEO”を見てみてください。

 

 いわゆる「ミュージック・ビデオあるあるネタ」だけで構成された映像作品なんですが、これの何が面白いかって、ミュージック・ビデオというフォーマットを使ってミュージック・ビデオを揶揄するという、メタ構造を作っている点に尽きますね。ある種のタブーを冒して笑いを取っています。

 その「音楽や映像を使って笑いを取る」スタンスはMUSIC VIDEO”に限らず、彼の他の映像作品やライブでも一貫しているスタンスです。6月に彼のライブを見る機会があったのですが、音楽コント作品としてかなり完成度が高かったですね。歌詞で楽曲の構成を「説明」するだけの”Explain”から、パペットとの会話形式でバンドマンに毒つくFRIENDS”など、ライブならではの演出で、あらゆる角度から笑いを追求していました(代表曲のMUSIC VIDEO”は映像作品として完成されているという理由で披露しないというストイックぶり)。

 笑いの作りとしては、陣内智則を思い起こさせる自作自演的な作風で、音楽の構造破壊で笑いを取るという点は、ゴールデンボンバーのパロディ感に近いですね。彼自身が公言しているように、音楽性は電気グルーヴからの影響を強く感じます。

 僕としては、岡崎体育のことはお笑い要素の強いミュージシャン、広義のエンターテイナーとして位置づけています。あくまでテクノ・ポップを下地に構成作家的に笑いをやっていて、芸人のやる音楽ネタとは違って(RADIO FISHまで突き抜けると例外ですが)ちゃんと丁寧に音を作っているのが伝わってきます。ただ、J-POPにリノベーションを起こしてきた電気グルーヴと比べると、音楽的に特筆すべきところは見当たらずネタが先行しているところはありますね。そういった意味で立ち位置はゴールデンボンバーが一番近い気がします。

 

 

 さて、前置きが長くなりましたが、そんな岡崎体育が10月14日「MUSIC STATION」に初出演しました。披露した曲は、Voice Of Heart”。これはライブでも定番の一曲なのですが、歌っている途中で歌詞を忘れ、その時の心情を「心の声」としてスピーカーから垂れ流し続けるという、放送事故コントですね。

 

この岡崎体育のMステ出演を受けて、思うところがありました。

 

1. エンターテイメントとして素晴らしかった

 さすがのパフォーマンスでした。あの「歌わない」パフォーマンスを、ミュージシャンの立場から、(今はかつてほど権威があるとは思えないけど)日本の音楽番組の殿堂とも言えるMステの場でやってのけたところに構造破壊=リノベーションがあって痛快でした。エンターテイナーとして、かっこよかったです。テレビを見てこういう気持ちになったのは、うたばんで見た神聖かまってちゃんとか、いつかの紅白で見たゴールデンボンバー以来かな。

 

2. テレビがカルチャーを拾い上げる場として機能した瞬間だった

 Mステに限らず、音楽番組の役割というのは、流行りのアーティストや良質な音楽と視聴者をつなぐことですが、ある時期から音楽のトレンドが読みにくくなり、言い方は悪いですが、音楽番組はレコード会社主導で売りたいアーティストの楽曲を一方的に垂れ流すメディアと化してしまった状況がありました。トレンドが読みにくくなった原因は、それまでセールスのほとんどを占めていたCDが売れなくなり、ダウンロードやストリーミングにマーケットが移ったことで、流行りの指標が分散したからですね。こういう状況にも関わらず、オリコンは変わらずCDセールスのみを頼りに、AKBやジャニーズが占拠するランキングを発表し続け、テレビ番組はそれに準じた、なんとも現場感のないブッキングし続けるという事態が続いていました。

 それが最近は少しは改善されつつある感じがします。依然としてAKBやジャニーズなど常連の席は固定されているのですが、今年のMステのラインナップを見ていると、CDが優れて売れているわけではないけど注目を集めている人や若手のブッキングが増えてますね。水曜日のカンパネラの2回に渡る出演や、ELEVEN PLAY&ライゾマティクスというメディアアート界からの参入が顕著ですが、それは今回の岡崎体育の出演でも改めて思いました。これまで電波に乗らなかった若手や新しいカルチャーを拾い上げようとする流れが感じられて良いと思います。こういう流れが日本でもっと大きく、音楽アワードや紅白レベルにまで浸透していったら面白いです。

 

3. J-POPはアイコン業なのか

 とはいえ、音楽なのに音楽以外のところばかり取り上げられるのって、ちょっとさみしいなとも思ったり。もっと音楽そのものについて語られても良いのにな、と思う気持ちもあります。今の時代、話題性を獲得するには、どうしてもキャラクター性やアイコン性、ファッション性が求められてしまう現状がありますよね。たとえば、水曜日のカンパネラは、コムアイのキャラクターやパフォーマンスの奇抜さに注目がいきがちなのはフックとして成功しているし上手いなと思うんですけど、ケンモチヒデフミのトラックを聴いて、これはどんなジャンルの音楽なんだろうとか、あるいは岡崎体育を聴いて、彼が影響を受けた電気グルーヴの曲も聴いてみようかなとか、そういうフィードバックってちゃんと起きてはいるんでしょうけど多くはない気がします。日本だとアーティスト信仰が強く、アーティストによる宗教をつくることに終始しがちで、音楽的な縦や横の繋がりが見えにくいところがあります。まあ、これに関しては国民性というか、今にはじまったことでもない気もしますし、ないものねだりなのかもしれませんが。ただ、今回、岡崎体育に並んでピコ太郎まで(映像のみですが)出演していた流れもあり、そんなことをぼんやりと考えてしまいました。いや、ネタは面白いしピコ太郎は何も悪くないんですけどね。

The Weeknd “False Alarm”のMV解禁

 ウィーケンドのニューシングル”False Alarm”のミュージック・ビデオが解禁になったのですが、これがすごいことになっています。ご覧ください。

 

 

 サバイバル・ゲームの世界をそのまま実写化したようなビデオなんですが、これが実に良く出来ています。終盤で時間経過の暗転がありますが、それを除いてほぼワンショットの一発撮りですね。ある人物視点をロングショットで映し続けることで、まるでその場にいるかのような臨場感を生むという、それ自体は映像的に珍しくない手法を取っているのですが、内容が非常にスリリングかつハイクオリティで終始目が離せません。肝心の曲が耳に入ってこないレベルです。この手のビデオだと、僕はプロディジーの“Smack My Bitch Up”(ジョナス・アカーランド監督)を思い出すのですが、それを超える衝撃ですね。映像技術もここ20年で飛躍的に上がったんだなって改めて思いました。

 

 “False Alarm”の監督はイルヤ・ナイスラーという人物なんですが、現在32歳の若手です。彼の過去のミュージック・ビデオ作品だと、こんなものがあります。

 

 

 同じく人物視点ものです。こちらはコメディ要素が強いですが、作りは”False Alarm”の原型になっています。これが2013年に話題になった後、2015年に映画”Hardcore”を発表しています。下の動画はメイキングを含むダイジェストですが、この時点で作風ははっきりしていますね。

 

 

PLAYLIST - 2016.10.13 NEW TRACKS

TR-1. Aimer - 蝶々結び

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 最近よく名前を見かけるので気になってました。Aimer(エメ)という日本の女性歌手です。2013年以降に「機動戦士ガンダムUC」関連でヒットを飛ばしていた人みたいですね。2016年は彼女にとって勝負の年のようで、ONE OK ROCK凛として時雨など有名アーティストをプロデューサーに添えてシングルを連続リリースしています。で、この曲は現在黄金期を迎えている野田洋次郎RADWIMPS)がプロデュースということで話題になっています。

 耳に残る独特の声質とメロディラインで、ちょうどRADWIMPSが出始めたゼロ年代のJ-POPのような懐かしさもある曲なんですが、ちょっとオーバープロデュースな感じがして、曲単位で見れば良いのかもしれませんが、人物として興味が持てないところはあります。歌声を売りにするためにキャラクター性を消しているのもあるのでしょうが。

 

 

TR-2. Billie Marten - Milk & Honey

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 ビリー・マーテン。BBC「Sound Of 2016」にもノミネートされていた人ですが、1999年生まれの現在17歳だというから驚き。ホーンアレンジの効いたダイナミックな楽曲に彼女のウィスパー・ヴォイスが合います。まだいまいちキャラクターが掴めませんが、攻め方次第ではロードのように化けるかも。

 

 

TR-3. Bruno Mars - 24K Magic

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 マーク・ロンソンとの“Uptown Funk”がメガヒットを記録したブルーノ・マーズの新曲。

 “Uptown Funk”でのディスコ・ファンク路線を継承しつつも、ザップ・オマージュなトークボックスを駆使したブギー・チューンで攻めてきました。これはリヴァイバル・ミュージックなので目新しさこそないですが、ディスコ・ファンク・ブームの中でありそうでなかった分野をピンポイント突いてきたという点で技あり。また街でクラブでブルーノの曲が流れまくるんだろうなと思うと嬉しいです。

 

 

TR-4. DAOKO - ダイスキ with TeddyLoid

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TR-5. Danny Brown (feat. Kendrick Lamar, Ab-Soul & Earl Sweatshirt) - Really Doe

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TR-6. Flamingosis (feat. The Kounts) - Bright Moments

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TR-7. Flume (feat. Tove Lo) - Say It

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TR-8. FWENDS - Why Can't You See

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TR-9. Glass Animals - Life Itself

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 バンドもので最近聴いたなかだとこれが一番エキサイティングでした。イギリスのオックスフォード出身のグラス・アニマルズの2ndアルバムより。

 民族的なビートが真っ先に耳を引くトラックはポップでエレクトロな展開を見せるもいやらしさはなくむしろ知的。ヴォーカルの緩急の効かせ方も見事。なんだか、最近あまり名前を耳にしなくなりましたがフォスター・ザ・ピープルに近いバランス感覚の良さを感じます。次のアルバムあたりで化けてくれないかな。

 

 

TR-10. Hailee Steinfield & Grey (feat. Zedd) - Starving

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PLAYLIST - 2016 SUMMER (50 TRACKS)

TR-1. Angel Olsen - Sister

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 セイント・ヴィンセントが、名盤“St. Vincent”をもって新たなギターロック・クイーンの誕生を印象付けたのが2014年の出来事。僕もその年フジロックで目撃した、アニー・クラークの仁王立ちでギターを構える姿は未だに忘れられないのですが、米国のシンガー・ソングライター、エンジェル・オルセンの新譜を聴いて、あの時に匹敵する衝撃を受けました。近年活躍している女性ソロシンガーと比較するならば、彼女は、セイント・ヴィンセントの凛々しさと、ジェニー・ルイスの悲壮感を合わせ持った存在ですね。

 アルバムの個人的ハイライトは、8分近くに及ぶ大曲“Sister”。彼女のギタリスト、ヴォーカリストとしての表現力がハイレベルで結実した傑作です。序盤のフリートウッド・マックを想起させる叙情的なフォーク・ロックから、“All my life I thought I'd change”とリフレインしながらギターを掻き鳴らすラストシーンに心震わされます。

 


TR-2. The Avalanches - Colours

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 900曲以上の楽曲の断片をサンプリングして作られたアルバム“Since I Left You”が大絶賛されたDJ集団アヴァランチーズが、16年ぶりにカムバック・アルバムをリリース。

 今回のアルバムは全体的に歌ものが多くヒップホップ・マナーが強い印象ですが、サンプリング・コラージュの美しさで言えば、この“Colours”が最高ですね。前作のタイトル曲のインパクトにこそ至りませんが、2016年の夏を彩る名曲として長く聴き続けたい一曲。

 


TR-3. BadBadNotGood (feat. Charlotte Day Wilson) - In Your Eyes

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TR-4. banvox - High And Grab

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TR-5. Bon Iver - 33 GOD

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 ボン・イヴェールの新作リリースは2016年の一大イベントの一つ。前作でのオーガニック/フォークな作風に加え、ヴォーカルとリズムセクションをドラスティックに重厚にしたことで、彼の楽曲が元々持っている荘厳さ、神秘性を極限まで爆発させています。

 


TR-6. bonobos - Cruisin' Cruisin'

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TR-7. BLACKPINK - Whistle

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 韓国YGエンターテイメントより、BLACKPINKのデビューEP“SQUARE ONE”収録曲。

 浮遊感のあるビートと一度聴いたら耳から離れない口笛のリフで音数少なめに進行していくと思いきや、突如メロディアスなコーラスになだれ込む謎の展開。トラックの先鋭さやビジュアル性の高さは米国のフィフス・ハーモニーあたりのガールズグループを意識しているように思えますが、聴覚的な面白さでいえばこの曲はフィフス・ハーモニーを食ってますね。それくらいこのトラックはよくできているし中毒性があります。曲中で連呼している「ふぃ ぱらむ」は「口笛」って意味らしいです。

 

 

TR-8. Blood Orange - Better Than Me

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 ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズの新作で個人的に一番刺さったのがこの曲。カーリー・レイ・ジェプセンをゲスト・ヴォーカルに迎えています。

 変則的なドラムパターンと冷ややかなシンセを下敷きに、カーリーのウィスパー・ヴォイスがエロティックに香り立つ佳曲。デヴ・ハインズが書いたカーリーの極甘バラード“All That”(“E・MO・TION”収録)と好対照を成す曲とも言えます。こちらも良い曲なので、あわせて聴いていただきたいです。

 


TR-9. Cashmere Cat (feat. The Weeknd, Francis & The Lights) - Wild Love

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TR-10. Cassius (feat. Ryan Tedder & JAW) - The Missing

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SUMMER SONIC 2016 - TOKYO 8.21.Sun(後編)

サマソニのライブレポ後編です。

 

前編はこちら。

 

 

 

THE YELLOW MONKEY @MARINE STAGE (15:50-)

 カシミア・キャットを観終わり、幕張メッセからマリンスタジアムへ移動。SONIC STAGEでキングを観ようか迷ったのですが、今観ておくべきはこっちだよなと。今年「サル年」にちなんで再結成したイエモンです。イエモンは世代ではないんですけど、大学生の頃、サークル仲間にファンが多かったので、そこで影響を受けて好きになりました。

 

 スタジアムがもうすごい熱気で、アリーナもスタンドもぎっしり埋まってました。僕が着いた時にはライブはちょうど後半に差し掛かっていたのですが、90年代の代表曲のオンパレード。大合唱の嵐でしたね。“楽園”、“バラ色の日々”、“パール”ときて、“LOVE LOVE SHOW”で会場の盛り上がりはピークを迎えます。で、ラストは吉井さんの「最高のロックンロール・アンセムを」の一言と共に“JAM”。イントロが流れた瞬間、「待ってました!」と言わんばかりの歓声があがります。ガッツポーズをしている人も。いやしかし“JAM”、本当にいい曲だよなあ。17年も前の曲なのに色褪せませんね。時代を超えた普遍性を感じます。

 

 


サカナクション @MARINE STAGE (17:20-)

 

 イエモンが終わり、このままサカナクションを観るか、幕張メッセに戻って、マーク・ロンソンを観るかで迷います。サカナクションは好きなバンドなんですけど、過去に2回(最近だと今年6月)彼等のライブは体験済。一方、マーク・ロンソンは観たことないので押さえておきたいところだし、さっきメイヤー・ホーソーンに感化されダンス・ミュージック熱が高まっているところでもあります。悩んだ結果、それ以上に、レディオヘッドを良い席で観たいという気持ちが勝りました。スタジアム前に1500人相当の列ができているとの情報も入ってきて、「ここを一度離れたらアウトだ」と判断し、残ることに。

 

 開始前、会場のナビゲーターの方が「今回、レディオヘッド側がサカナクションを前座として指名した」という興味深いことをコメントしていました。たしかに、話題性と集客力で言っても、レディオヘッドのファンの年代層的にも、サブヘッドライナーにイエモンを添えた方が自然な流れな気がするのですが、その位置にあえてサカナクションを置いているのは、演出上の問題か、政治的な問題かでしょう。ナビゲーターのコメントのソースはこれでしょうかね。

 

 

 野外で日が沈む前に観るサカナクションはある意味貴重です。照明やレーザーが映えるアリーナ、屋内ライブで本領を発揮する彼等。野外のまだ明るい時間だと演出に制約がかかるので、過去に体験したものと比較すると、視覚的にどうしても見劣りするところはありました(ステージから離れたスタンド席から観ていたのもありますが)。ただ、視覚情報が制限された分、かえって楽曲の強さ、演奏力の高さが際立って伝わってくる結果に。やっぱり彼等の楽曲はスタジアムにも対応する強度があって良い。セトリの組み方も王道ではありますが相変わらず良くできていて、冒頭の掴み、中盤の聴かせるパート(今回はここが一番良かった)、ダンス(レイブ)パートを挟んでからの終盤の盛り上げまで、ショーとして洗練された作りになってました。楽曲単位でのカタルシスの作り方(特に1曲目の“ミュージック”のラスサビに持っていくアレンジは何度聴いても最高)も上手くてさすが。「一度ワンマンに行ってみたい」と思わせる、フェス・パッケージの理想形です。ライブ・バンドとしての強さを見せつけてくれたステージでした。

 

 


Radiohead @MARINE STAGE (19:00-)

 僕は、レディオヘッドに対して、これといった思い入れがあるわけではないです。レディオヘッドは個人的に90年代のイメージが強く、もちろんゼロ年代以降も良作をいくつもリリースしていたのは確かだけど(というより彼等の作品には駄作が一切ないけど)、ゼロ年代に洋楽に出会い育った僕からすると、「同時代のバンド」という意識がなかった分そこまで注目していなかったというか(あくまで私情で、90年代への憧れと嫉妬があるからなんですけど)。ただ、音楽家集団として彼等に尊敬の念を抱かないわけにはいかないですし、ポップミュージック史的に見ても最重要バンドの一つ、音楽の教科書のような存在です。好き嫌い抜きにして、評価されるべきバンドだと思います。

 

 そんなレディオヘッドの、2003年以来のサマソニ出演。会場はびっくりするくらいの人で溢れかえってました。アリーナなんてすし詰め状態で、僕が見たなかで過去最大。2012年のリアーナの時よりも多かったですね。意外と若い人も多い。日本で彼等が人気があるのは知ってたけど、想像以上でした。客席での会話は“Creep”やるのかどうかで持ちきり。あの伝説を再び起こしてくれると期待してる人が多いのでしょう。

 

 予定より15分ほど遅れてライブがスタート。“Burn The Witch”、“Daydreaming”と新作からの楽曲を立て続けに演奏。今回のアルバムがいかにバラエティに富んだものかを示唆するリードトラックです。この2曲の動と静の対比を、動脈のような赤と、静脈のような青の照明効果も手伝って、見事に表現していました。メンバーの阿吽の呼吸の演奏は勿論、舞台、照明、音響含むテクニカルの能力がとにかく高く計算され尽くしていて、次元が違う。

 

 演奏時に一貫して流れる緊張感。息を飲むとはまさにこのことで、ステージから遠く離れた僕にもその緊張は届き、思わず背筋がピンとなる。一方で、MCでの終始酔っ払ったようなトム・ヨークの佇まい。このギャップには肩透かしを喰らいました。あまりにも不穏なキャラクターで、会場に笑いが起こるほど。僕もはじめは「えっどうしたの?」と戸惑いましたが、途中から、このトム・ヨークのピエロのような振る舞いは、演奏時に放たれるシリアスさや狂気を引き立てるように狙った演出なんだと思いましたね。演奏で張り詰めたテンションを弛緩させ、次の演奏に橋渡しをする、ショウのナビゲーターとしての役割を担っていたように見えました。

 

 ライブでは、新作からの楽曲を中心に、歴代の代表曲も惜しげもなく披露していきます。ラストは“Everything In Its Place”、“Idioteque”と、“Kid A”からの2曲なんですが、このラストパートは、彼等の狂気性がピークに達した圧巻の流れ。最後の一音が切れると同時に暗転した瞬間の、終始張っていた糸が解ける一瞬が儚く美しすぎて、思わずニヤッとしてしまいました。

 

 そうして濃密な本編が終了。そして、アンコールの時間になるのですが、ここで本日最大の2択に悩まされます。

 

 

1. このままMARINE STAGEでレディオヘッドを観る。

2. SONIC STAGEに移動し、The 1975を観る。

 

 

 そう、今から幕張メッセに戻れば、The 1975を30分強は堪能できるのです。レディオヘッドのライブにはすでに十分満足していたのもあり、The 1975も観ておきたいという欲が出てきます。しかし、レディオヘッドはこの時点でまだ“Creep”を演奏していない。あの伝説の再来を目撃したいという気持ちも勿論あります。

 

 そうこう揺れているうちに、アンコールがはじまります。ここでなんと、ファンにとっては堪らない名曲“Let Down”(“OK Computer”収録)を持ってきました。僕は、本編での“No Surprises”と、この“Let Down”を聴いた時点で、「今日は“Creep”やらないだろうな」と確信し、マリンスタジアムを離れることにしました。

 


が、しかし!!!

 

 

 僕の予想は裏目に出ました。移動途中でTwitterを開くと、「うおおおおお!Creepやってる!!!」とのコメント。いや、これはネタかもしれないと一瞬疑ったものの、同じようなコメントが一斉に増えていき、すぐに本当だとわかりました。

 

 気づいたら僕は全速力でマリンスタジアムに向かって走っていました。「あれ?今Creepやってるんじゃね・・・?」なんて会話をしている人の群れを横切り、到着したころには、ちょうど演奏が終わり、拍手大喝采が巻き起こっていたところでした。僕の頭のなかに真っ先に出てきた言葉は「二兎を追うものは一兎をも得ず」。僕の判断力の甘さとか、いいとこ取りをしようとした不誠実さが招いた失敗ですね。反省しました。ただ、悔しかったけど、会場が歓喜と祝福感に包まれる瞬間に立ち会えたのは嬉しかったです。強がりではなく。音楽を通して人々が繋がる瞬間を味わえることこそライブの醍醐味ですし、それがここまで高い熱気で感じられることって、そうそうないですから。 

 

 


The 1975 @SONIC STAGE (20:35-)

 レディオヘッドの素晴らしいステージと打ち上げ花火の余韻に浸る間もなく、幕張メッセに移動。最後の悪足掻きでThe 1975を観るためです。UKロックシーンの「今」を知る上で、今勢いに乗っているThe 1975はどうしてもチェックしておきたかった。

 

 SONIC STAGEに到着したとき、“Chocolate”を歌っている最中でした。彼等のライブでよく終盤に披露される曲なので、「ああ、終わっちゃうかも・・・」と思わず声を漏らしてしまいまいたが、まだ続きがありました。MCを挟んだ後、演奏されるは“The Sound”。白で統一されたライトが瞬くなか、80sライクな跳ねるようなサウンドに誘われ、フロアが一体となって揺れる。僕も大好きな曲なので、これを生で聴けただけでも走って来た甲斐がありました。そして、この新たなダンスロックアンセムの勢いを引きずったまま、ラストは疾走感のある“Sex”で、エンドロールのようなフィナーレ。「このまま終わらないでほしい」と思いながら最後の瞬間を噛み締める、せつない時間がフロアには流れていました。今年のサマソニのクロージング・アクトのラスト曲でもあるので、終末感を感じましたね。

 

 The 1975のライブは、先ほどのレディオヘッドの時とはまるで違う、アイドルのライブのようでした。フロアには目をキラキラさせた若い女の子が多かったのが印象的で、ワン・ダイレクションとか、5セカンズ・オブ・サマーの系譜として彼等を位置付けている人はきっと少なくないんだろうなって思いました。でも、僕は、彼等がただのアイドルバンドではないことは、アルバムを聴いた時点で想像はしていて、それはこの日確信に変わりましたね。マシュー・ヒーリーの狙ったように甘いMCやパフォーマンスは一見アイドル的ではありますが、それはあくまでシュガーコーティングで、実態は野心あふれる、セルフ・プロデュース力の高いロックンロール・バンドという印象。今のシーンを意識した上でポップに振り切り、ほど良く音楽的にマニアックなアレンジを効かせる良い意味でのあざとさを持ったバンドで、時代を牽引してくれるような力強さも感じられました。彼らはまた次作のリリースタイミングで来日してくれると信じているので、その時はフルセットで観たいと思います。

SUMMER SONIC 2016 - TOKYO 8.21.Sun(前編)

Posted 4 months agoSUMMER SONIC 20162年ぶりのサマソニ2日目のみの参加。

 2年ぶりにサマソニに行ってきました。今年は幕張2日目のみ。忘れないうちにライブレポートを書きます。

 

タイムテーブルはこちら。

 

http://www.summersonic.com/2016/timetable/images/tokyo_0821.png

 

 

 

この日の目玉は、何と言っても、レディオヘッドですね。

 

http://www.musicman-net.com/files/2016/05/f573034245637f.jpg

 

 彼等がある時期のライブから封印してきた幻の名曲“Creep”を演奏した、伝説のステージとして語られる2003年のサマソニ以来、実に13年ぶりのサマソニ出演です。傑作“A Moon Shaped Pool”を引っ提げたツアータイミングでの来日ということもあり、期待が膨らみます。

 

 レディオヘッド前の邦楽2組のブッキングが上手かったのもあると思いますが、この日のチケットがソールドアウトしているあたりに、彼等がどれだけ日本のリスナーから支持されているかが伺えます。

 

http://countdown.the1975.com/assets/gfx/The1975.jpg

 

 あと、SONIC STAGEのトリを務めるThe 1975も、今最も旬なバンドの一つで、観たい人は多いでしょう。この2組を観られるだけでもチケット代は十分ペイできるのですが・・・悲しいことに、この2組の時間帯、思いっきり被ってるんですよね・・・。ブッキングが素晴らしいだけに、残念でなりません。とはいえ、期待のアクトが目白押しのラインナップに変わりないので、迷わずチケットを購入しましたけど。

 

では、本編に入ります。

 

 

 

Blossoms @SONIC STAGE (13:30-)

 1組目に選んだのは、UKの新星ロックバンド、ブロッサムズ。BBC「Sound Of 2016」にも選出されていた期待の新人で、デビューアルバムが全英チャートで初登場1位を獲得したばかり。レディオヘッドといい、The 1975といい、前日のラット・ボーイといい、今年のサマソニはUKロックのオイシイところを押さえていて素敵です。今話題のブロッサムズ、僕もすごく楽しみにしていました。


 ただ、実際に観てみると、良くも悪くも音源通りといった印象でした。メロディセンスは光るものを感じたのですが、全体通して演奏が淡々としていて、ライブで聴く醍醐味をあまり感じられず。ギラギラした80sニューウェイヴ・サウンドを現代にアップデートした音自体は聴いていてときめくものはあったのですが、パフォーマンスが地味なせいか、印象に残らず、冗長に感じてしまいました。アコースティックパートを挟むことでアクセントをつけていたようですが、かえって冗長さを助長しているような気がしてしまいましたね。

 

途中で抜けて、隣のMOUNTAIN STAGEへ。

 



Mayer Hawthorne @MOUNTAIN STAGE (13:50-)

 メイヤー・ホーソーンは、アメリカ・ミシガン州出身のソウルシンガー。かねてからブルーアイド・ソウルの新旗手として注目されていた人でしたが、近年、ジェイク・ワンとディスコ・ソウル路線のタキシードを組んだのが記憶に新しいです。

 

 黒人女性ヴォーカル含む、バンド編成でのゴージャスなステージ。僕が会場に到着したころには、すでにMOUNTAIN STAGEがダンスフロアと化していました。メイヤーって格別歌が上手いわけではないんですけど、恍惚の表情で気持ちよさそうに歌うので聴いていて心地好い。高音域での声の伸ばし方がセクシーで、ブルーアイド・ソウルの先輩、ダリル・ホールを彷彿とさせるものがありました。隣にいたアフロヘアーのサポメンがジョン・オーツみたいだったので、ホール&オーツのパロディかと思えてしまうほど。

 

 ハイライトは、タキシードの“Do It”。やっぱりこの曲人気なんですね。頭のコーラスが流れた瞬間、わっと歓声が起こりました。そのあと、エアロスミス&Run-DMCの“Walk This Way”で会場を沸かせたかと思えば、そのまま自身の“The Walk”につなげるファイン・プレー。そして、“Love Like That”で締め。と思いきや、ラストはティアーズ・フォー・フィアーズの“Everybody Wants To Rule The World”!これは僕も大好きな曲なのでずっとニヤニヤしっぱなし。70sソウルからディスコ・ブギー、そして80sのニューウェイヴからAORまで、幅広い音楽性をナチュラルに繋いでしまう懐の広さに、彼を見る目が変わりました。自然と身体を横に揺らしてしまう、メイヤーと観客の幸せそうな笑顔が印象的な、至福の一時でした。

 

 


METAFIVE @SONIC STAGE (14:45-)

 METAFIVEは、高橋幸宏小山田圭吾砂原良徳TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井による日本のスーパーバンド。この6人が揃ってフェスに出演することって、今後どれだけあるでしょうか。始まる前から後ろの方まで客が入ってました。

 

 オープニングSEと共に、バックのLEDパネルにキネティック・タイポグラフィで構成された白黒の映像。「METAFIVE」の文字が映り歓声に包まれるなか演奏スタートですが、素晴らしいの一言でした。エッジィなテクノサウンドボトムラインをガチッと固めつつ、そこにファンクを取り込んで動きをつけたり、ニューウェイヴやヒップホップの要素を入れて色味を変えたりと、縦横無尽に音像を変形させてしまうレンジの広さは、この6人だからこそなせる技ですね。

 

 あと、巨匠たちに囲まれながら、LEO今井がきちっと存在感を示していたのがよかった。最初のMCで、高橋さんが「レオくん、今日は気合い入ってるね〜」っていじってた時に改めて思いましたけど、彼、このメンバーの中だと圧倒的に若手なんですよね。なのに、物怖じしせず肝の座った、華を添えるパフォーマンス。他のメンバーがどれだけ偉大だろうと、彼がいなけばこのバンドの見え方は大分違ったでしょうね。2年前のサマソニで観た森高千里 feat. tofubeatsの時にも思いましたが、ベテランが若手にチャンスを与える形での良質なコラボレーションは今後も増えていってほしいなと思います。

 

 

 

Cashmere Cat @MOUNTAIN STAGE (15:10-)

 

 ノルウェー出身のDJ/プロデューサー。まだEPを3枚しか出していないにも関わらず、アリアナ・グランデカニエ・ウェストといったビッグネームとの仕事で一躍有名になった人です。ハドソン・モホークに通じるエレクトロ・ベースミュージックを軸に、R&Bやトラップ、ヒップホップなど様々なジャンルを飲み込み、浮遊感のある独自の音世界を生み出しています。


 静寂のなか鳴り響く水滴のような繊細さと、それを自ら破壊するような凶暴さをあわせ持った、創造と破壊を繰り返しながら神秘的に展開していく物語性の高いDJでした。バックの色調を抑えた大自然の映像も相まって、絶えず大きな河を流れていくような、密林の奥深くに迷い込んだようなトリップ感があって心地よかった。自身の曲とリミックス・ワークに加え、中終盤でのアリアナとの“Be My Baby”や、カニエとの“Wolves”がフックとして効いてましたね。ヴィジュアルへの意識含めてよく計算されているなと思いました。

 

 プレイに関しては申し分なかったんですけど、強いて言うなら、もっと遅い時間、できれば深夜に、もっと小さいハコで観たかったですね。客がまばらな昼間のMOUNTAIN STAGEではちょっと酔いきれなかった。

 

長くなってしまったので、ここで一旦区切ります。