2016年 ベスト・ソング (20位→1位)
BEST SONGS of 2016 (20位→1位)
これの続きです。20位から1位まで一気にいきます。
20. Charisma.com - unPOP
EP『unPOP』表題曲。フックの"too pop to die"に喰らいました。NONA REEVESの西寺郷太との共作。フランク・オーシャンに通じるアンビエントR&Bのムードだったり、ブルーノ・マーズにリンクするトークボックス使いだったり同時代のアーティストからヒントを得たと思しきナンバー。西寺氏らしい普遍的なポップセンスといつか氏の卓越したフロウが光る、Charisma.comの新境地に達した一曲。
19. ASA-CHANG&巡礼 - 告白
そんなCharisma.comも出演していた「commons10 健康音楽」というイベントで聴いて胸を揺さぶられたのがこの曲。映像作家、勅使河原一雅のオフィシャルサイトに記載されているプロフィールをほぼそのまま歌詞にしているそう。
18. 宇多田ヒカル (feat. KOHH) - 忘却
宇多田ヒカルの復活は2016年を彩る重要な出来事でした。新鋭ラッパーのKOHHを迎えて制作されたこの曲は、言葉選びからフロウまで圧倒的で、大衆的に認知されていなかったKOHHをフックアップしつつも互いの魅力を引き立てた作りにした宇多田の大物ぶりにも脱帽。
17. Michael Kiwanuka - Black Man In A White World
イギリスの黒人シンガーソングライター。軽快なアフリカン・ビートにストリングスがアクセントを添えるクラシックなトラック。そこにマーヴィン・ゲイを彷彿させる、哀愁を帯びたスモーキーなヴォーカルと、畳み掛けるように繰り返されるコーラスが重なるシンプルな楽曲。終盤の"I'm not wrong"、"It's alright"と嘆くように絞り出されるシャウトからは、昨年のケンドリック・ラマー「Alright」にも呼応し匹敵するほどのブラック・コミュニティの切実な現状が伝わってきます。
16. The xx - On Hold
英国のインディロックバンド。ジェイミーxxのソロ作を経て発表されたこの曲で、陰影さが後退した代わりに躍動感を手にしています。根底にはThe xx特有のメランコリアがしっかり流れていながらも、シックなビートとサンプリング・ヴォイス使いにヒップホップへのアプローチが感じられる楽曲で、ギターのストロークスもこれまでになく色彩豊か。
15. 三浦大知 - Cry & Fight
満島ひかりが所属していたことでも有名なFolder出身のR&Bシンガー/ダンサー。音楽プロデューサー/DJのSeihoをトラックメイカーとして迎えたエッジィなダンスナンバーで、ラストのSeiho節が炸裂するパートが聴きどころ。
14. 女王蜂 - 金星
女王蜂史上最もポップな曲(だと思う)。ダフト・パンクからプリンス、The 1975にもリンクするダンスロックチューンで、ヴォーカルのアブによる性を超越したパフォーマンスもお見事。
13. Solange - Cranes In The Sky
姉のビヨンセとは別ルートでインディシーンに接近を続け、EP『True』ではデヴ・ハインズ(ブラッド・オレンジ)を迎え「Losing You」なんていう素晴らしい曲を披露してくれたソランジュでしたが、今作はジャズの要素を取り入れた独自のモダンR&Bで、これが圧倒的なクオリティの高さ。
12. Sampha - Timmy's Prayer
SBTRKTというロンドンの音楽プロジェクトのゲスト・ヴォーカルとして知られる人物で、今年ソランジュの「Don't Touch My Hair」にも参加していました。これは来年リリース予定のデビューアルバムからのリードシングル。フランク・オーシャンに通じるアトモスフェリックなR&Bを展開していますが、ヴォーカルがとにかく渋く美しい。
11. Kanye West (feat. Vic Mensa & Sia) - Wolves
母親との別離と恋人との破局の経験をもとに制作されたカニエ・ウェストのアルバム『808s & Heartbreak』(2008年)は、個人的に歌唱的にもトラック的にも物足りなさを感じる内容だったのですが、あの時に足りなかったものを補い進化した新しいカニエの音がこの曲に集約されていると思いました。
『808s & Heartbreak』で鳴っていたオートチューンによる厭世的な世界観はそのままに、トラックの強度を硬質なマシンドラムが支え、ヴォーカルの弱さをヴィック・メンサとシーアが補い、また、ノルウェー出身のDJ/プロデューサーであるカシミア・キャットが楽曲に奥行きを与え神秘的に彩っています。こういうのを待ってました。
10. Suchmos - STAY TUNE
ここ数年日本で流行っているシティポップの文脈で語られることの多いバンドです。「とりあえずサチモス好きって言っておけばセンスいい自分演出できる」と、かつての渋谷系を聴いていたようなサブカル層にヒットさせることに成功したのか、今久々にYouTubeの再生回数の多さを見て驚いています。その分アンチも多く揶揄の対象にされる印象がありますが、僕は好きです。音楽的に洗練されていて、インディ・マインドと大衆性を兼ね備えた彼等の存在は今のJ-POP/J-ROCKシーンに必要な存在ですね。R&Bをファンク/ロックのアプローチで実践したサウンドは、久保田利伸やジャミロクアイがロックバンドを組んだような面白さがあり、既聴感がありながらも、シーンを牽引する力強さを感じました。
9. Mija & Vandata - Better
ロサンゼルスを拠点に活動する女性DJ/プロデューサーのミハと、同じくロサンゼルスを拠点に活動するデュオ、ヴァンダータによるコラボシングル。ジャンルはフューチャーベースと呼ばれる、オーストラリア発祥の、煌びやかなシンセサウンドに独特のヴォイスサンプルを織り交ぜたエレクトロニック・ダンスミュージック。高揚感あふれながらも哀愁を漂わせるサマーアンセムで、はじめて聴いた瞬間から胸がときめきました。
8. David Bowie - Lazarus
"Look up here, I'm in heaven"(見上げてごらん、私は天国にいる)という意味深な一節から始まるこの曲。これは自らの死期を悟ったデヴィッド・ボウイからのリスナーへの最後のプレゼントでした。新世代のジャズミュージシャンを従えた、ドラマティックな展開を見せる、緊迫感に満ちた演奏に対峙するかのようなボウイの歌声がエモーショナルで力強く儚い。
7. Rihanna (feat. Drake) - Work
2016年は、ドレイクの「One Dance」やシーアの「Cheap Thrills」など、レゲエ/ダンスホールのヒットが目立ちましたが、そのトレンドを浸透させる役目を果たしたのが、リアーナとドレイクによる「Work」でしょう。レゲエ/ダンスホールを、昨今のインディR&Bに見られるミニマルなビートで再解釈し、さらにトロピカルハウスの流れまで回収した、狙い定めたように確信犯的なトラック。そこに、リアーナの呪術的なフロウが絡む中毒性の高い楽曲ですね。"ワーワーワーワー"のキラーフレーズは今年何度耳にしたか知れず。
6. Chance The Rapper (feat. Lil Wayne & 2 Chainz) - No Problem
シカゴ出身の23歳のラッパー。ストリーミング限定にも関わらず全米チャートにベスト10入りしたことでも話題になったミックステープ『Coloring Book』より。チャンスの力強いフロウや、リル・ウェインと2チェインズとのマイクリレーも聴きどころのひとつですが、ヒップホップにゴスペルを取り入れた、祝祭ムード漂うゴージャスなバックトラックが印象的。街で、ラジオで、クラブで、職場で幾度となく聴いた2016年を代表するアンセム。
というわけで、2016年らしさとシーンへの影響力だけで言ったら、今年の1位は「No Problem」か「Work」にするところでした。ここから先は僕の趣味が多分に反映された、しかしながら多くの方にお薦めしたい5曲になります。
5. Tegan And Sara - Boyfriend
LGBTの気運が高まるなか、クィア・アイコンとしても知られるカナダの双子姉妹デュオが発表した新曲は、プライヴェートで切実なラヴソングでした。
「Boyfriend」は、メンバーのサラとある同性女性とのあいだにあった実話をもとに、一方通行の恋を切なく歌った楽曲。コーラスでの"And trust me like a... like a very best friend"の詰まったように言い直すまでの溜め、そして"I don't want to be your secret anymore"(これ以上あなたの秘密でいたくない)とのフレーズが刺さりました。プロデュースは、甘酸っぱいバブルガム・ポップを作らせたら彼の右に出る者はいない、グレッグ・カースティン。
4. The 1975 - Somebody Else
ブロッサムズと並び、今年最も勢いのあったUKロックバンド。この「Somebody Else」は、今年個人的に最もよく聴いたハートブレイク・ソングでした。
80sなネオンサインが似合う、ムーディで感傷的なバラードに乗せ、真剣な眼差しで痛々しげにハートブレイクを歌うマット・ヒ―リー。アイドルバンドと揶揄されることの多い彼等ですが、マットのこのカッコよさとダサさのスレスレを行く絶妙な感じはこのバンドを構成する大事な要素で、それはそのまま彼等の魅力だと思いますね。パフォーマンスだとしても、ここまで弱さや恥ずかしい姿を見せられる人ってそうそういないですよ(もちろん褒めてます)。ゼロ年代以降に増えていったインテリ系のインディバンドとは一線を画した骨の太さを感じさせる、新時代のロックシーンの開拓者としてのポテンシャルを秘めたバンドだと僕は思っています。
3. 水曜日のカンパネラ - アラジン
2016年はメディアへの露出も著しかった水曜日のカンパネラ。EP『SUPERKID』収録のこの曲は、アラジンのランプを"こする"研磨材の歌で、音のコンセプトはわかりやすくマイケル・オマージュな「2016年版スリラー」。輪郭のヴィヴィッドなディスコ・ビートが80sライクな方向性を打ち出していますが、民族的なアレンジが異国情緒の香りを漂わせ、終盤でのUKハウス/ガラージな展開やフューチャーベース風のヴォイスサンプルなど仕掛けも多く、時代やジャンルを軽快に横断しています。コムアイの歌唱もいつになくしなやかで歌謡曲的。今年のJ-POPで最もワクワクした一曲でした。
2. Frank Ocean - Nikes
今年の問題作『Blonde』の冒頭を飾る一曲。音数を抑えながらもギミックが多く、聴覚を刺激する巧みなトラックメイキングと、終始流れるバッド・トリップ感にやられました。プリンスが、アルバム『Sign O' The Times』(1987年)レコーディング期に、低速で録音した歌声を後から早回しにした時に生まれる奇妙な歌声を遺しているのですが、「Nikes」ではそれを模したような中性的な歌声を覗かせ、まるで悪魔に憑りつかれたかのような、身体性を失わせたかのような虚脱感を漂わせています。聴いているうちに心の闇を炙り出されるかのよう。
1. D.A.N. - Native Dancer
往々にして、良い音楽体験というのは、出会った時に、既にどこかで会ったことがあるような懐かしさがあり、また、新しいものに触れる刺激と喜びにも満ちたものだと思っています。2016年の僕にとって、D.A.N.の「Native Dancer」との出会いがそれに最も近く、それは実に心地好い既聴感でした。東京出身の3ピースバンドD.A.N.は、よくOGRE YOU ASSHOLEとかフィッシュマンズと比較されまして、それが僕が感じた既聴感の部分でもあるんですけど、それよりもアーバンで低温度感のあるメロウなサウンド、幽霊のように透き通った歌声に浮遊感のあるフロウ、ダンサブルでグルーヴィーなビートによる有機的な組み合わせは、他にはない化学反応を起こしていて僕には特別な音として響きました。
以上、今年の僕のベスト・ソングでした。お付き合いいただきありがとうございました。