INTO THE GROOVE

洋楽/邦楽、メジャー/インディー、分け隔てなく。「今」を生きる、選りすぐりのポップミュージックを。 selected by YAMAGE

2016年 ベスト・ミュージックヴィデオ

BEST MUSIC VIDEOS of 2016

 

The Avalanches - Because I'm Me

Director: Greg Brunkalla

 2000年の大傑作『Since I Left You』からおよそ16年ぶりのリリースとなる、アヴァランチーズの2ndアルバム『Wildflower』より。ニューヨークの地下鉄の駅を舞台に、若きマイケル・ジャクソンを思わせる少年による愛おしいダンス・ヴィデオ。現実から地続きでファンタジーの世界になだれ込むこの世界観は、前作の表題曲「Since I Left You」を思い出させます。

 

 

Beyoncé - Formation

Director: Melina Matsoukas

  今年の2月7日に開催された「スーパーボウル・ハーフタイムショウ」で、本来主役であるはずのコールドプレイから完全に主役の座を奪ったあのパフォーマンスを覚えているでしょうか。あの場で披露していたのが、ショー出演の前日に発表されたこの「Formation」でした。この新曲およびミュージック・ヴィデオは、海を超えここ日本でも話題となりました。

 “What happened at the New Orleans!?(ニュー・オーリンズで何が起こったんだ!?)“の掛け声で始まるこのヴィデオ。ニュー・オーリンズを舞台に、水没したパトカーの上に横たわるビヨンセ、壁に落書きされた”Stop shooting us(私たちを撃たないで)”の文字、そして白人警官の前で踊る黒人の少年。そうです。このヴィデオは、2005年8月にアメリカ東南部を襲ったハリケーン・カトリーナの救助活動時に浮き彫りになった、警官による黒人差別の問題、そしてここ数年のあいだに立て続けに起きた白人警官によるアフリカン・アメリカンの射殺事件を受けて制作されています。このヴィデオがどういう意図で制作されたかは、言わずもがなです。このヴィデオ(およびハーフタイムショウのパフォーマンス)では、黒人女性達による「X」字のフォーメーション・ダンスを組んでいるのですが、これは攻撃的な黒人解放指導者として知られるマルコムXを意識していると言われています。衣装はまさにマルコムXの意志を継いだブラックパンサー党(黒豹党)ですね。ブラックパンサー党は、マイケル・ジャクソンが「Black Or White」のヴィデオのラストシーン(パンサー・パートと呼ばれている)で表現していた黒豹ともリンクしますが、この「Black Or White」のヴィデオでマイケルが演じているような、人種差別に対し攻撃的で過激な政治団体のことです。この衣装をビヨンセが身に纏っているということは、つまりそういうことです。

 「Formation」のヴィデオに関しては様々な議論が交わされていて、ここで語るまでもないのですが、僕が知る限り、ビヨンセがここまでメッセージ性を強く過激なやり方で運動を起こした姿は見たことがないですね。これだけ影響力がある彼女がここまで踏み切った動きをするということは、バッシングも免れず下手をすると命の危険に晒される行為だと思うのですが、それを顧みずにこのビジュアル作品を発表したこと、大舞台で過激なパフォーマンスを行い、2016年の音楽界や政界の情勢に影響をもたらしたビヨンセには改めて脱帽させられました。あの2月以降、他のミュージシャンも彼女に触発される形で刺激的なリリースが続いたし、2016年の音楽シーンの流れを変えた重要人物でした。

 

 

Beyoncé - Hold Up

Director: Jonas Åkerlund

  そんなビヨンセの「Formation」が収録されたアルバム『Lemonade』は、夫のジェイZの浮気にも言及した、プライヴェートなアルバムでもありました。この「Hold Up」は、ビヨンセのジェイZへの怒りを爆発させた、ひとりの感情を持った女性としてのビヨンセを演出しています。「Formation」と同軸でこういう振れ幅のある曲とヴィデオを作ってしまうあたり、さすがエンターテイナーだと思いますね。

 

 

BLACKPINK - Whistle / Boombayah

Director: Seo Hyun-seung

 

 韓国YGエンターテイメントより今年デビューした4人組グループ。ビジュアルに特化したプロジェクトとのこと。グループの方向性としては米国のフィフス・ハーモニーからヒントを得ているのではないかと思いますが、映像的にはBLACKPINKの方が見所が多く色感も豊かで良いですね。

 

 

Cassius (feat. Ryan Tedder & JAW) - The Missing

Director: We Are From LA

cassiusthemissing.com

  クラブミュージック・シーンではベテランの域に入るカシウスのニューアルバムより。下のインタラクティヴ・ヴィデオが、カップルの組み合わせを変えられるコンセプチュアルで内容で面白いな思いました。

 

 

Common (feat. Stevie Wonder) - Black America Again

Director: Ava DuVernay

 

 

DAOKO - BANG!

Director: 児玉裕一

 

 日本のラップシンガーDAOKOが今年リリースしたトリプルA面シングルより。ヴィデオ内のDAOKOに、彼女が敬愛する椎名林檎からの影響を感じられて微笑ましい。監督は、椎名林檎の旦那である児玉裕一

 

 

David Bowie - Lazarus

Director: Johan Renck

 

  今年1月10日に息を引き取ったデヴィッド・ボウイのラストシングル。病床を舞台に、最期のメッセージを高らかに歌い上げるこのヴィデオは、ボウイが表現者として最期の力を振り絞った渾身の作品。これほどまでに生々しく美しく気迫に満ちたヴィデオを観たのは、ジョニー・キャッシュの遺作「Hurt」以来かもしれません。このヴィデオに多くを語ることはないです。ミュージック・ヴィデオ史に深く刻まれることになるであろう傑作で、ボウイをはじめ多くの著名ミュージシャン達が次々とこの世を去った2016年はこの作品と共に人々の記憶に残り思い出されることでしょう。

 

 

D.R.A.M. (feat. Lil Yachty) - Broccoli

Directors: Nathan R. Smith and Hidji Films

 

 

Empire Of The Sun - High And Low

Directors: Empire Of The Sun and Roof Studios

 

 

Frank Ocean - Nikes

Director: Tyrone Lebon

 

 

 

HOWL BE QUIET - Daily Darling

Director: 田辺秀伸

 

  日本の新鋭バンドHOWL BE QUIETのメジャーデビューシングル収録曲。英国のThe 1975に通じるところがあって、アイドルというフォーマットを使ってバンドをやるのをコンセプトに掲げている人達ですね。このヴィデオは少女漫画の世界を具現化したような内容で、照明とカラーコレクションが綺麗で印象に残りました。

 

 

Jamie xx - Gosh

Director: Romain Gavras

 

 

Kanye West (feat. Sia & Vic Mensa)

Director: Steven Klein

 

 

lyrical school - RUN and RUN

Director: 隈本遼平

  「スマホがジャックされる」の触れ込みで話題になった、新人アイドルグループ、リリカル・スクール(通称リリスク)のヴィデオ。ミュージック・ヴィデオも形態を変えて進化したものだとしみじみ。二番煎じ感があるので選外にしましたが、個人的に、KOHHの「Mitsuoka」のミュージック・ヴィデオの方が作風は好きです。

 

 

Mitski - Your Best American Girl

Director: Zia Anger

 

 

Mura Masa - What If I Go?

Director: Yoni Lappin

 

 

OK Go - The One Moment

Director: Damian Kulash

   OK Goが今年もやってくれました。4.2秒の映像をもとにしたスローモーション・ヴィデオだそうです。ちなみに、この曲は次のアルバムのリードシングルとかではなく、2014年の『Hungry Ghosts』収録曲です。どれだけMVに命かけてるんだ。

 

 

PAELLAS - Fire

 

 

Radiohead - Burn The Witch

Director: Chris Hopewell

 

  

Skylar Spence - I Can't Be Your Superman

Director: Maegan Houang

 

 

Solange - Cranes In The Sky / Don't Touch My Hair

Directors: Alan Ferguson and Solange Knowles

  肉体と衣装と風景の有機的な繋がりだけで魅せるヴィデオ。ハイセンスで美しい。ずっと観ていられる。

 

 

The Weeknd - False Alarm

Director: Ilya Naishuller

  サヴァイバル・ゲームの世界を実写化したような過激なショート・ムーヴィー。あまりにも完成度が高く息を飲む凄まじい内容で、ウィーケンドの楽曲が耳に入ってこない。

yamage1988.hatenablog.com

 

 

Years & Years - Worship

Director: Matt Lambert

  ヴォーカルのオリ―・アレキサンダーパフォーマーとして輝く、独創的な振付が見所。

 

 

岡崎体育 - MUSIC VIDEO

Director: 寿司くん

 今年の顔の一人ですね。ミュージック・ヴィデオの構造破壊に挑んだ力作。

 

 

水曜日のカンパネラ - カメハメハ大王

Director: 渡邉直

  水カンも今年ブレイクしたアーティストの一組ですが、ヴィデオの奇天烈さもそれを手伝っているでしょう。この「カメハメハ大王」は、「ディアブロ」や「ジャンヌダルク」のヴィデオを手掛けた渡邉直氏が監督・編集なだけあって、ギャク指数が高い。振付を担当された竹森徳芳氏にも拍手を送りたいです。

 

 

水曜日のカンパネラ - 松尾芭蕉

Director: 山田智和

  同じ水カンでも、こちらはコマーシャル・ヴィデオですが、スケール感の大きさと圧倒的な世界観に打ちのめされました。

 

 

The 1975 - The Sound

Director: Tim Mattia

  The 1975は一定数のリスナーからアイドルバンドとして認知されておりアンチも多いわけですが、そんなリスナーのアンチの声をそのままヴィデオにしてしまった作品がこれですね。ヴィデオの後半では、ガラス張りのボックスの外側にいた傍観者(リスナー)と内側にいたメンバーの立場が逆転する描写があり、メンバーから皮肉と怒りを匂わせますが、結局のところラストでのマット・ヒ―リーの悲痛でやるせない表情がすべてを物語っている気がします。

 

 

YouTube Rewind: The Ultimate 2016 Challenge

Producer: Portal A

 2016年を総括したマッシュアップ音源・動画は数多く出ていますが、YouTubeのこれが僕が見たなかでは最も映像面でのオマージュやネタが多く散りばめられていてクオリティも高いと思いました。音楽面だけでなく、カルチャーの側面からもサポートしているのもポイント高し。今年世界で何が流行っていたか知りたい、思い出したい方はぜひ。

 

 

TOKYO CULTURE STORY|今夜はブギー・バック(smooth rap) in 40 YEARS OF TOKYO FASHION & MUSIC|

Producer: BEAMS

 

 最後に紹介するのはこちら。1976年から2016年までの東京のストリートファッションの移り変わりを、音楽と共に再現したBEAMSの企画ヴィデオ。小沢健二スチャダラパーの名曲「今夜はブギーバック」を、各時代を象徴するミュージシャンがリレー形式で歌い継いでいくわけですが、この人選、完璧とは言えないにしても妥当だと思いましたし、細部までこだわり抜いた素晴らしい動画だと思います。5分強と短い動画なので、見たことのない方はぜひ見てみてください。