INTO THE GROOVE

洋楽/邦楽、メジャー/インディー、分け隔てなく。「今」を生きる、選りすぐりのポップミュージックを。 selected by YAMAGE

SUMMER SONIC 2016 - TOKYO 8.21.Sun(後編)

サマソニのライブレポ後編です。

 

前編はこちら。

 

 

 

THE YELLOW MONKEY @MARINE STAGE (15:50-)

 カシミア・キャットを観終わり、幕張メッセからマリンスタジアムへ移動。SONIC STAGEでキングを観ようか迷ったのですが、今観ておくべきはこっちだよなと。今年「サル年」にちなんで再結成したイエモンです。イエモンは世代ではないんですけど、大学生の頃、サークル仲間にファンが多かったので、そこで影響を受けて好きになりました。

 

 スタジアムがもうすごい熱気で、アリーナもスタンドもぎっしり埋まってました。僕が着いた時にはライブはちょうど後半に差し掛かっていたのですが、90年代の代表曲のオンパレード。大合唱の嵐でしたね。“楽園”、“バラ色の日々”、“パール”ときて、“LOVE LOVE SHOW”で会場の盛り上がりはピークを迎えます。で、ラストは吉井さんの「最高のロックンロール・アンセムを」の一言と共に“JAM”。イントロが流れた瞬間、「待ってました!」と言わんばかりの歓声があがります。ガッツポーズをしている人も。いやしかし“JAM”、本当にいい曲だよなあ。17年も前の曲なのに色褪せませんね。時代を超えた普遍性を感じます。

 

 


サカナクション @MARINE STAGE (17:20-)

 

 イエモンが終わり、このままサカナクションを観るか、幕張メッセに戻って、マーク・ロンソンを観るかで迷います。サカナクションは好きなバンドなんですけど、過去に2回(最近だと今年6月)彼等のライブは体験済。一方、マーク・ロンソンは観たことないので押さえておきたいところだし、さっきメイヤー・ホーソーンに感化されダンス・ミュージック熱が高まっているところでもあります。悩んだ結果、それ以上に、レディオヘッドを良い席で観たいという気持ちが勝りました。スタジアム前に1500人相当の列ができているとの情報も入ってきて、「ここを一度離れたらアウトだ」と判断し、残ることに。

 

 開始前、会場のナビゲーターの方が「今回、レディオヘッド側がサカナクションを前座として指名した」という興味深いことをコメントしていました。たしかに、話題性と集客力で言っても、レディオヘッドのファンの年代層的にも、サブヘッドライナーにイエモンを添えた方が自然な流れな気がするのですが、その位置にあえてサカナクションを置いているのは、演出上の問題か、政治的な問題かでしょう。ナビゲーターのコメントのソースはこれでしょうかね。

 

 

 野外で日が沈む前に観るサカナクションはある意味貴重です。照明やレーザーが映えるアリーナ、屋内ライブで本領を発揮する彼等。野外のまだ明るい時間だと演出に制約がかかるので、過去に体験したものと比較すると、視覚的にどうしても見劣りするところはありました(ステージから離れたスタンド席から観ていたのもありますが)。ただ、視覚情報が制限された分、かえって楽曲の強さ、演奏力の高さが際立って伝わってくる結果に。やっぱり彼等の楽曲はスタジアムにも対応する強度があって良い。セトリの組み方も王道ではありますが相変わらず良くできていて、冒頭の掴み、中盤の聴かせるパート(今回はここが一番良かった)、ダンス(レイブ)パートを挟んでからの終盤の盛り上げまで、ショーとして洗練された作りになってました。楽曲単位でのカタルシスの作り方(特に1曲目の“ミュージック”のラスサビに持っていくアレンジは何度聴いても最高)も上手くてさすが。「一度ワンマンに行ってみたい」と思わせる、フェス・パッケージの理想形です。ライブ・バンドとしての強さを見せつけてくれたステージでした。

 

 


Radiohead @MARINE STAGE (19:00-)

 僕は、レディオヘッドに対して、これといった思い入れがあるわけではないです。レディオヘッドは個人的に90年代のイメージが強く、もちろんゼロ年代以降も良作をいくつもリリースしていたのは確かだけど(というより彼等の作品には駄作が一切ないけど)、ゼロ年代に洋楽に出会い育った僕からすると、「同時代のバンド」という意識がなかった分そこまで注目していなかったというか(あくまで私情で、90年代への憧れと嫉妬があるからなんですけど)。ただ、音楽家集団として彼等に尊敬の念を抱かないわけにはいかないですし、ポップミュージック史的に見ても最重要バンドの一つ、音楽の教科書のような存在です。好き嫌い抜きにして、評価されるべきバンドだと思います。

 

 そんなレディオヘッドの、2003年以来のサマソニ出演。会場はびっくりするくらいの人で溢れかえってました。アリーナなんてすし詰め状態で、僕が見たなかで過去最大。2012年のリアーナの時よりも多かったですね。意外と若い人も多い。日本で彼等が人気があるのは知ってたけど、想像以上でした。客席での会話は“Creep”やるのかどうかで持ちきり。あの伝説を再び起こしてくれると期待してる人が多いのでしょう。

 

 予定より15分ほど遅れてライブがスタート。“Burn The Witch”、“Daydreaming”と新作からの楽曲を立て続けに演奏。今回のアルバムがいかにバラエティに富んだものかを示唆するリードトラックです。この2曲の動と静の対比を、動脈のような赤と、静脈のような青の照明効果も手伝って、見事に表現していました。メンバーの阿吽の呼吸の演奏は勿論、舞台、照明、音響含むテクニカルの能力がとにかく高く計算され尽くしていて、次元が違う。

 

 演奏時に一貫して流れる緊張感。息を飲むとはまさにこのことで、ステージから遠く離れた僕にもその緊張は届き、思わず背筋がピンとなる。一方で、MCでの終始酔っ払ったようなトム・ヨークの佇まい。このギャップには肩透かしを喰らいました。あまりにも不穏なキャラクターで、会場に笑いが起こるほど。僕もはじめは「えっどうしたの?」と戸惑いましたが、途中から、このトム・ヨークのピエロのような振る舞いは、演奏時に放たれるシリアスさや狂気を引き立てるように狙った演出なんだと思いましたね。演奏で張り詰めたテンションを弛緩させ、次の演奏に橋渡しをする、ショウのナビゲーターとしての役割を担っていたように見えました。

 

 ライブでは、新作からの楽曲を中心に、歴代の代表曲も惜しげもなく披露していきます。ラストは“Everything In Its Place”、“Idioteque”と、“Kid A”からの2曲なんですが、このラストパートは、彼等の狂気性がピークに達した圧巻の流れ。最後の一音が切れると同時に暗転した瞬間の、終始張っていた糸が解ける一瞬が儚く美しすぎて、思わずニヤッとしてしまいました。

 

 そうして濃密な本編が終了。そして、アンコールの時間になるのですが、ここで本日最大の2択に悩まされます。

 

 

1. このままMARINE STAGEでレディオヘッドを観る。

2. SONIC STAGEに移動し、The 1975を観る。

 

 

 そう、今から幕張メッセに戻れば、The 1975を30分強は堪能できるのです。レディオヘッドのライブにはすでに十分満足していたのもあり、The 1975も観ておきたいという欲が出てきます。しかし、レディオヘッドはこの時点でまだ“Creep”を演奏していない。あの伝説の再来を目撃したいという気持ちも勿論あります。

 

 そうこう揺れているうちに、アンコールがはじまります。ここでなんと、ファンにとっては堪らない名曲“Let Down”(“OK Computer”収録)を持ってきました。僕は、本編での“No Surprises”と、この“Let Down”を聴いた時点で、「今日は“Creep”やらないだろうな」と確信し、マリンスタジアムを離れることにしました。

 


が、しかし!!!

 

 

 僕の予想は裏目に出ました。移動途中でTwitterを開くと、「うおおおおお!Creepやってる!!!」とのコメント。いや、これはネタかもしれないと一瞬疑ったものの、同じようなコメントが一斉に増えていき、すぐに本当だとわかりました。

 

 気づいたら僕は全速力でマリンスタジアムに向かって走っていました。「あれ?今Creepやってるんじゃね・・・?」なんて会話をしている人の群れを横切り、到着したころには、ちょうど演奏が終わり、拍手大喝采が巻き起こっていたところでした。僕の頭のなかに真っ先に出てきた言葉は「二兎を追うものは一兎をも得ず」。僕の判断力の甘さとか、いいとこ取りをしようとした不誠実さが招いた失敗ですね。反省しました。ただ、悔しかったけど、会場が歓喜と祝福感に包まれる瞬間に立ち会えたのは嬉しかったです。強がりではなく。音楽を通して人々が繋がる瞬間を味わえることこそライブの醍醐味ですし、それがここまで高い熱気で感じられることって、そうそうないですから。 

 

 


The 1975 @SONIC STAGE (20:35-)

 レディオヘッドの素晴らしいステージと打ち上げ花火の余韻に浸る間もなく、幕張メッセに移動。最後の悪足掻きでThe 1975を観るためです。UKロックシーンの「今」を知る上で、今勢いに乗っているThe 1975はどうしてもチェックしておきたかった。

 

 SONIC STAGEに到着したとき、“Chocolate”を歌っている最中でした。彼等のライブでよく終盤に披露される曲なので、「ああ、終わっちゃうかも・・・」と思わず声を漏らしてしまいまいたが、まだ続きがありました。MCを挟んだ後、演奏されるは“The Sound”。白で統一されたライトが瞬くなか、80sライクな跳ねるようなサウンドに誘われ、フロアが一体となって揺れる。僕も大好きな曲なので、これを生で聴けただけでも走って来た甲斐がありました。そして、この新たなダンスロックアンセムの勢いを引きずったまま、ラストは疾走感のある“Sex”で、エンドロールのようなフィナーレ。「このまま終わらないでほしい」と思いながら最後の瞬間を噛み締める、せつない時間がフロアには流れていました。今年のサマソニのクロージング・アクトのラスト曲でもあるので、終末感を感じましたね。

 

 The 1975のライブは、先ほどのレディオヘッドの時とはまるで違う、アイドルのライブのようでした。フロアには目をキラキラさせた若い女の子が多かったのが印象的で、ワン・ダイレクションとか、5セカンズ・オブ・サマーの系譜として彼等を位置付けている人はきっと少なくないんだろうなって思いました。でも、僕は、彼等がただのアイドルバンドではないことは、アルバムを聴いた時点で想像はしていて、それはこの日確信に変わりましたね。マシュー・ヒーリーの狙ったように甘いMCやパフォーマンスは一見アイドル的ではありますが、それはあくまでシュガーコーティングで、実態は野心あふれる、セルフ・プロデュース力の高いロックンロール・バンドという印象。今のシーンを意識した上でポップに振り切り、ほど良く音楽的にマニアックなアレンジを効かせる良い意味でのあざとさを持ったバンドで、時代を牽引してくれるような力強さも感じられました。彼らはまた次作のリリースタイミングで来日してくれると信じているので、その時はフルセットで観たいと思います。